2015(平成27)年度 第1回授業

 「人の体の不思議」

講師 学長 養老孟司先生 東京大学名誉教授

 

5月23日(土)10時~11時20分 鎌倉芸術館小ホール

 

 


 (授業リポート・要約)


部品はなぜ動くのか

体(からだ)には二つの見方があります。一つは、心臓(しんぞう)や肝臓(かんぞう)など、からだがどういう部品でできているかということ。もう一つは、部品がどのように動くかということです。

 私の専門(せんもん)の解剖(かいぼう)は、からだをバラバラにするというイメージがありますが、本当はからだがどういうふうにできているのかを調べるのが目的です。つまり部品がどうのように動くかを調べることです。

筋肉(きんにく)はどこについているかな? 

学生=骨(ほね)。

そうだね。骨についています。筋肉が働くのに骨がいります。骨についている筋肉が縮(ちぢ)んだり、伸(の)ばしたりして、からだを動かすのです。舌(した)は筋肉です。舌の筋肉が縮むと、舌が前に出るようになっています。

 

からだの外にある器官

からだの部品は内臓だけでなく、目や耳、鼻など、からだの外側にもあります。これらは、からだの外の世界とかかわりあいがあります。目は外を見る、耳は外の音や声を聞く、鼻はまわりのにおいをかぐ。これらは感覚器官と言います。

では、腸は内臓だろうか。たとえば石を飲み込(こ)むと、腸を通ってお尻(しり)から外へ出ますね。一本の管(くだ)が、からだの中を通っていて、食べ物など外の物を通過(つうか)させて、おしりから外へ出す。中と外の区別が実はむずかしいのです。

 

からだに菌(きん)が百兆個(こ)もある

外の部品であることを証明(しょうめい)するものは何だろう? 

学生=ばい菌(きん)。

そうだね。ばい菌は、外からは入って来るね。そのばい菌はどうしたら見えるのかな。オランダの学者が顕微鏡(けんびきょう)をつくって自分の口の中を見たら、たくさんの生きものが動いていて、びっくりしたという話があります。そのばい菌が口から腸へ行きます。だから腸は外とつながっていると言えます。

人間のからだには、菌(きん)やウイルスがどれくらいあるか知っているかな? 百兆個あると言われています。すごいね。見えないから、みんな平気なんだね。ヨーグルトには(乳酸)菌がいっぱいあることは、みんなは知ってるね。

昔、ぼくらが子どものころは、からだの中にいる生きものを見ることがありました。回虫(かいちゅう)です。トイレでおしりから出てきた回虫を見ることができました。

 

菌と「共生」している

お腹(なか)には、いろんな生きものが住んでいるんだね。いま、手をゴシゴシ洗(あら)って除菌(じょきん)するのがはやっているね。菌の種類によるけれど、からだに菌がいて当たり前なんです。君らは百兆の菌といっしょに生きているということを忘(わす)れないでね。

菌はからだの表面にもいます。けがをすると膿(う)むでしょ。それは、ばい菌が入るからです。生きものといっしょに住むことを「共生」と言います。

 

なぜ、食べ物でむせるのか

食べ物は口から入って食道を通り、胃に行きます。口の奥(おく)、のどには穴(あな)が二つあって、奥にあるのが食道。その手前にある穴が肺(はい)につながる気管(きかん)です。君たちは食べたとき、むせることはないかな? そのときは食べ物が食道ではなく気管に入ったからです。お年寄りは、ときどきおモチをノドに詰(つ)まらせて亡(な)くなることがありますが、これはモチが気管に入って呼吸(こきゅう)できなくなるからです。

 

 カエルには耳たぶがある

 人間は口で自由に息をすったり、はいたりできますが、ネズミや馬、ブタなどは口で呼吸できません。カエルの耳を見たことある人、いますか? いないね。カエルは耳たぶがありませんが、耳をのぞくと、丸い鼓膜(こまく)が見えます。ニワトリも耳たぶはないけれど、穴があります。ヘビはどうかな? あごの骨が耳の役割(やくわり)をしていて、地面をはっているとき、あごで足音を聞いています。

人間は耳たぶも鼓膜もありますが、自分の声と相手が聞く自分の声はちがうんだね。自分の声は頭の骨にひびきますが、相手の声は自分の骨にひびかない。それで声がちがって聞こえるのです。

 

「同じ」って何だろう

 「同じ」ということでいえば、漢字で「同」をいくつ書いても、まったく同じ「同」という字は書けないよね。少しずつ違(ちが)う。でも「同じ」と読める。読めればいい。アメリカ人に「Boyの正しい発音をおねがいします」と言っても、人によって発音がちがう。でも「Boy」(少年)と分かればいいわけだ。「青」(とボードに赤いマジックで書き)、「これを何と読む?」と聞くと、たいてい「青」と読むでしょ。でも「これは何色?」と聞くと、「赤」と答えるでしょ。分かれば正しいということです。

 人間のからだは同じと言っても、一人ひとりちがうよね。そこが大事なんです。

 

 では質問(しつもん)に移(うつ)ります。

 

◇ 質問コーナー ◇

 



(一斉(いっせい)に手がある。時間の都合で14人が質問しました。その一部と先生の回答を紹介(しょうかい)します)


Q オオサンショウウオの脳(のう)はマッチ棒(ぼう)の大きさということですが、サケは?


養老先生 もっと大きいよ。海の動物で脳が大きいのはクジラやイルカ。しかもしわが多いね。


Q ウイルスは生きものですか?


養老先生 生きものの一部です。しかし、自分で増(ふ)えることができません。人間にとりついて自分を増やしていくのです。増えることを考えると生きものといえます。


Q からだにいる細菌(さいきん)と、外から入ってくる細菌はちがいますか?


養老先生 全然ちがわない。外から入ってくる細菌が害になる人と、ならない人がいます。アメリカでレストランにつとめる女性(じょせい)は腸チフスの菌を持っていたので、お客さんにチフスがはやった。でも、本人はチフスにならなかったという話があります。病原菌に平気な人がいます。だから初めから「このウイルスは害になる」とは言えません。


Q 小さいとき、どんな生き物が好きでしたか?

養老先生 カニだね、特にベンケイガニ。ふにゃふにゃしていなくて、かたいし、かっこいいからね。いまは近所で見なくなったけれど、小網代(こあじろ)に行くとたくさんいるよ。80種類ぐらいいる。ダンスをするカニもいます。ぜひ、見に行ってください。

(了)(文責=矢倉久泰)