2025年度「子ども大学かまくら」 第1授業
「だれも知らない動物園の裏側 ~絶滅危惧種を守る苦闘~」
講師 村田 浩一先生 (横浜市立よこはま動物(ズーラシア)園長、 日本動物園水族館協会会長)
6月16日(日)午前10時から
鎌倉生涯学習センターホール
(授業レポート)
動物を3分は見てほしい
今日は、①横浜動物園ズーラシアの紹介 ②なぜ皆さんは動物園へ行くのか ③動物園の役割 ④動物園の生物多様性保全 ⑤動物園の将来 --についてお話します。ズーラシアは横浜市にある日本最大級の動物園で、1982年に開園、今年で開園26周年になります。
なぜ動物園に行くのかをアンケート調査した結果、動物が好きだから、子どもにせがまれた、恋人と一緒に行きたいーという順番になっています。ところが、来園した人たちが動物を見る時間は、たったの30秒。私は毎日、動物を見ていますが、3分以上見ていると、動物の毎日の行動の違いや変化が分かります。せめて3分以上は見てほしいです。
地球には500万から1億種以上の生物、動物がいます。「万物の霊長」などと言われている人間は、その中の一種に過ぎず、特別な存在ではありません。そんな認識を動物園に来て学んでほしいです。
(休憩)
絶滅したコウノトリが200羽に
動物園は4000年前に、王様や貴族の敷地にライオンやキリン、象などを飼う形で存在していました。それが近代化して、最近、求められているのは地球環境保全の役割とか、動物たちの幸せを動物園で実現しようという考え方です。生物多様性の保全が大切なキーワードになっています。
実際に横浜市の動物園では、ミズアオイとか、ムカシツチカエルという地元の生物を研究し、守っています。国レベルでは、ライチョウやツシマヤマネコ、コウノトリなどを保全しています。
日本のコウノトリは1970年代に絶滅しましたが、海外からコウノトリを導入して、飼育で繁殖させ、野外へ戻すという取り組みに私自身も参加して、今は200羽以上のコウノトリが日本各地で生息しています。中央アルプスの高山地帯に生息する雷鳥も、動物園で人工授精させ、育ったヒナを山に戻すという高度な仕事により保全が成功しつつあります。
この活動はSDGsの目標14番・15番に貢献しており、平和や公正、人種・貧困問題にも動物園が関与すべきとの動きが広がっています。
「センス・オブ・ワンダー」の感性を
生物多様性保全をわかりやすく説明するためのメッセージは、小学校で習う金子みすずさんの詩にある「みんな違って みんないい」という言葉。そしてDDTの危険性を訴え、使用禁止までつなげた海洋生物学者のレイチェル・カーソンの言葉を収録した本の題名「センス・オブ・ワンダー」です。「センス・オブ・ワンダー」は、美しいもの、未知なもの、神秘的なものに目を見張る感性を指します。この感性を養える場所としての動物園の存在意義に多くの人に気づいてもらいたい。そして自分の生き方を考えて少しずつでも変えていく、自然の大切さを考え、守る活動をして、行動できるようになってほしい、明日、自分に何ができるかを考えることが、より良い社会への出発点になるのです。
(文責 畑 美樹子、 写真 島村國治)