2025年度「子ども大学かまくら」
養老学長特別対話ゼミナール
テーマ「日常生活で感じている問題や疑問」
講師 養老孟司先生 (子ども大学かまくら学長、 東京大学名誉教授)
7月24日(木)午前10時から
鎌倉芸術館集会室
(授業レポート)
-最初の一部を収録-
司会 これから特別対話ゼミナールを始めます。皆さん、学長の養老孟司先生です。
養老学長 暑い朝から皆さん、ちゃんと座っているから、びっくりして。僕が君たちぐらいだった頃は、夏休みになったら滑川に行って魚釣ってました。当時、琴弾橋から川に降りられたんで、川に入れば水が流れてますから涼しい。ウナギもいましたよ。こんなちっちゃなウナギの子どものカワヤツメは、砂の中に潜っていて、透き通って、きれいでね。バケツに入れて、友達の家の井戸に放り込んで。川に住んでたのに、地下水に引っ越しさせられて、魚もびっくりしたでしょうけど。そうやって遊んでました。
座席の順番で学生が質問して、養老学長から回答
小学4年 先生が思う一番強い虫は何だと思いますか?
養老学長 ゴキブリですね。しぶとい。あとアリです。うちの奥さん、アリの集団見つけるとすぐシューっと薬まいてますけど、巣は地下に広がってて、大きいから、簡単になくなりません。
小学4年 春になると、どうしてタケノコはあんなに早く成長するのですか?
養老学長 タケノコは、植物の中で早く伸びることを得意にしてできたんですね。生物は生存戦略で、生きていくためにいろんな工夫をします。植物は陽に当たらないと成長に必要なものを作れません。タケノコは、他の植物の陰にならないように、早く伸びる工夫をしたんです。
小学5年 虫捕りして、虫が小さくなっている感じです。温暖化と関係ありますか。
養老学長 あるかもしれないし、ないかもしれない。虫の大きさを決めてるのは、食べ物の量もありますけど、カブトムシやアリとかハチは完全変態と言って、脱皮しながら、最後に、さなぎからかえる。こういう完全変態の虫は大きさはあまり変わらないはずです。だけど、さなぎになる前の脱皮の回数が少ないと小さい。僕が調べてる虫だと6ミリが一番多くて、7ミリ、8ミリと大きくなるにつれ数が減ってくる。逆も同じで、これを正規分布と言ってます。こういうことって、どこにも書いてないから自分で調べないと分からないです。
小学6年 人間が捨てたネコなどが野生化して、天然記念物である生き物を食べてしまっているのですが、駆除の他に何かできることはないですか?
養老学長 これはやっかいな問題ですね。専門家の中でも意見が対立して、「入っちゃったものはしょうがない、それも自然のうちだ。そのうち落ち着くだろう」という考え方と、「入ってきたものは不純物だから除かなきゃいけない」と頑張る人がいて、よくけんかしてます。僕は「入ったものはしょうがない」に近いですね。生態系はものすごく複雑で、簡単に変わってしまうもんじゃないと思ってます。ただ環境省が最近、「マングースが奄美大島から絶滅した」と発表したのはよかった。奄美大島には黒ウサギ、それから毛長ネズミとか、変わった動物がいたけれど、人間が持ち込んだマングースが獲ってしまっていた。最近、絶滅したトキが増えてます。それは日本のトキじゃないけれど。気にしないでいいんじゃないかな。
小学4年 どうして学校はあるのですか。行かなければならないのはなぜですか?
養老学長 これはみんなが思ってることじゃないかな。何か嫌なことがあるからかな。
小学4年 別にないんですけど、もうちょっと楽しいことをしたい。
養老学長 要するに学校は時間の無駄だっていうことですね。僕もそうでした。僕にとって学校の授業は知ってることばっかりだったんで、退屈してましたね。おもしろくなるように工夫したらいい。僕の頃の机は、机の板がフタのように上に開けるようになっていたので、授業中は、ふたを開けて中に置いた本を読んでました。本を読むのが好きだったんで、本当に本をよく読みましたね。本がないと死にそうになりますね。
学校になんで行かなきゃいけないのっていったような問題は、大人になっても世の中にたくさんあります。今日もそうです。この暑いのに何でここに来なきゃいけないのと思う。でも、やっぱり来た方がいいと自分が判断したから来てるんで。学校に行かないと親が困る。親が「行かなくてもいいよ」って言ったら、今度は自分が困る。先生が話してるのに聞いてないと怒られます。人が話しているのに聞いてないのは、だれにとっても不愉快でしょ。だから、しょうがないんで、聞きたくなきゃ聞かなきゃいいんですよ。
小学4年 将来のことが想像つかないです。お金持ちで自由自在な生活を送れる大人になりたいと思います。どうやったらなれますか?
養老学長 いいですね。僕もお金持ちで自由自在な生活を送りたいと思っているうちに88歳になっちゃいました。今でも考えますけど、もうちょっと世の中とお付き合いして、お金を稼いでおけば、僕の好きな虫捕りや標本を作る時間がもっと増えたかなと思います。でも、一生懸命お金を稼ぐ仕事をしてたら、そっちがおもしろくなって、虫なんかどうでもよくなっちゃうかもしれない。将来のことが分からなくて当たり前。なぜ将来が分かってなきゃいけないかって言うと不安で、心配だから。でも明日、明後日どうなるかは本当に分かんない。だけど、一応先のことは分かったことにして、何とかなると思いたい。だから、努力したり、勉強したりするんだけど、僕は先がありませんから、一生懸命努力してもお金が儲かるわけじゃない。何かやりたいことがあったら今やんないと間に合わないっていう年になっちゃいました。
(編注;
こんな調子で、養老先生は参加者36人全員の質問に答えていました。時間切れで、質問できなかった4人の学生の質問にはメールで回答してもらいました。それを含め残り30人についてのやりとりは、2027年春に発行予定の授業記録集に収録します。楽しみにしていてください)
(文責=菊池みどり、写真=島村國治)
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(文責=畑 美樹子、写真=島村國治)