2025年度(令和7年度) 第3回授業

2025年度「子ども大学かまくら」第3回授業

 

「小泉八雲(やくも)の『怪談(かいだん)』から見た日本の姿(すがた)

講師  池田雅之先生(早稲田大学名誉教授、鎌倉てらこや顧問)

朗読  中里 貴子先生(早稲田大学オープンカレッジ顧問)

2025年9月21日() 

鎌倉芸術館集会室

 

 

(授業レポート)

 

 八雲はなぜ日本にやってきて「怪談」を書いたのか

皆さんは「怪談」を書いた小泉八雲を知っていますか。本当の名前はラフカディオ・ハーン。明治23年(1904年)に横浜に到着(とうちゃく)。当時40(さい)でした。お父さんはアイルランド人、お母さんはギリシャ人です。「怪談」の他にも、八雲は鎌倉や江ノ島を人力車で(めぐ)って5(さつ)の本を残しています。だから皆さんにとっても身近な作家なのだと感じてもらえるといいです。

 

4歳の八雲を残して母親はギリシャに

軍医をしていたお父さんはギリシャに出向いている時にギリシャ人の女性に出会い、結婚(けっこん)。八雲が2歳の時にアイルランドの首都ダブリン()()します。4歳の時にお母さんが環境(かんきょう)(ちが)いでノイローゼになり、八雲を残してギリシャに帰ってしまいます。それ以来、八雲は死ぬまでお母さんに会えていません。そんなお母さんを失った悲しみが「怪談」の中にある「雪女」とか「青柳ものがたり」などに影響(えいきょう)していると考えられます。八雲は16歳の時に縄遊びで左目を強打して失明し、右目を酷使(こくし)してひどい近眼にもなります。また(あず)けられていた叔母(おば)さんの家が破産して18歳で放浪者(ほうろうしゃ)になってしまいます。当時、産業革命(かくめい)の最中で、アメリカに移民船で(わた)った八雲は、そこで新聞記者になります。西洋で生きることに苦労を重ねた八雲は、東洋に(あこが)れを(いだ)き、取材のため日本にやってきました。

 

お化けは八雲の考えを伝える代弁者

そして日本が気に入り、八雲は松江市の尋常(じんじょう)中学校で英語の先生になります。お手伝いさんとして八雲の世話をしていた松江(はん)の武士の(むすめ)である小泉セツさんと親しくなって結婚します。セツさん一家も明治維新(いしん)による時代の変化で(さむらい)貧乏(びんぼう)になってしまい、セツさんもさまざまな苦労を重ねていました。八雲と趣味(しゅみ)境遇(きょうぐう)が似ていて意気投合いきとうごうしたわけです。

日本人がどんなたたずまいで生きてきたのかということが伝わるような話が「怪談」には多いです。一般的(いっぱんてき)に八雲はお化け作家だと言われるけれども、お化けはあくまでも八雲や日本人の考えを伝えるために使われている代弁者なのです。このように大変苦労した八雲ですが、生き()くとはどういうことなのか、皆さんに生きていく上でのヒントを授けてくれる貴重(きちょう)な人だと思います。

 

中里貴子先生が「青柳ものがたり」を朗読(ろうどく) 内容省略

 

これは木に宿っている妖精(ようせい)のお話です。私が一番好きな作品です。日本人の世界観は、自然と人間がつながっていて、これに似たような作品もいっぱいあります。命あるものは共に生きている、つまり人間だけが(えら)いのではないということです。自然と共に生きるという考えを八雲も持っていました。ニューオリンズでの新聞記者時代も環境問題に取り組んでいた八雲は、自然破壊(はかい)が進む中、伐採(ばっさい)される木々が「やめて」と訴える、そんな記事を書く記者でもありました。

 

(休憩)

 

八雲が大切にしたこと

日本人は、日本の良さを水とか空気のようにあまり意識していません。外国から来た人の方が日本をよく観察しています。特に八雲は日本と同じ自然信仰(しんこう)のある国柄(くにがら)のアイルランドとギリシャの血が流れているため、日本人の自然との生き方を八雲のアンテナが感じ取ることができたのでしょう。多文化を経験した八雲から、世界をどのように理解し、接していくのかという課題も学ぶことができるでしょう。

 

八雲は日本の素晴らしさを伝えるために全て英語で書いています。しかし学校では日本人に向けて欧米(おうべい)のことを教えました。西洋と日本をこのように行き来した作家は他にいません。八雲の目指したものは東西の平和、(むずか)しく言うと融和(ゆうわ)です。

 

中里貴子先生が「ちんちん小袴(こばかま)」を朗読 内容省略

 

「ちんちん小袴、よもふけ(そうろう」―非常にリズムがありますね。妖精の正体は爪楊枝(つまようじ)です。ものぐさなお(じょう)さんに説教する話です。欧米の人に日本の「土産本」として売り出され、日本の文化を知るよき材料として人気があったようです。八雲の2作品を読んでいただいて、何か感想ありますか。

 

中里貴子先生 小泉セツさんの「思い出の記」を読んで、すごいと思ったのは、八雲がセツさんに「この話を読まないで、あなたの言葉で語って聞かせてください」と注文したそうです。そのためセツさんは八雲の注文に答えて、話を暗記して暗記して、お化けの夢を見るほどだったそうです。だから私も朗読の時、ただ読むのではなくて聞き手にちゃんと伝えよう、という気持ちを大切にしています。()           

 

                  (文責=光成 佳世、写真=島村 國治)

 

注=池田雅之先生の著作は「小泉八雲 日本美と霊性の発見者」 訳書に「新編 怪談」「新編

 

日本の面影」など多数  9月29日から始まったNHKの朝ドラ(8時45分)「ばけばけ」は 小泉セツさんを主人公に小泉八雲の人生を描いた物語です