2025年度「子ども大学かまくら」第4回授業
「お互い様」でみんなで元気に
講師 櫻井 純子先生(湘南鎌倉医療大学 助教)
2025年11月23日(日)
湘南鎌倉医療大学 講義室
(授業レポート)
今日は「お互い様」と「みんな元気」が、何で関係あるのかをお話したいと思います。私は学生時代に2泊3日でカンボジアに行きました。カンボジアではHIV(エイズ)の感染率が高く、教育が不十分のため感染を広げてしまう現実を知り、アジアで健康教育をする人になりたいと思いました。そしたら先生に「まず日本で技術とか知識を身につけないと、使いものにならないよ」と言われ、アジアに一番近い所、日本の最西端にある離島・沖縄県の与那国島で「保健師」として働くことにしました。
日本の最西端・与那国島に保健師で働く
保健師は何をする人なのか。看護師は、患者さん個人が相手で、病気の治療、回復が仕事の中心です。ところが保健師は、治療だけじゃなく、病気の予防も行います。対象は、個人と、その家族、地域の生活集団で、人々の健康を守り、病気の予防にも取り組む仕事をします。
与那国島は鎌倉から1900キロ離れていますが、台湾までは111キロです。晴れた日には台湾を見ることができます。海中に沈む珍しい石の海底遺跡を見るため、世界中からダイバーたちがやってきます。スーパーはありません。商店の食料品は石垣からの週2回のフェリーで届きます。その前日は食料品の棚は空っぽ、フェリーが着く夕方は行列ができます。
島民の生活習慣が大量飲酒に
島には与那国診療所が一つあり、今は医師2人がいて何でも診ます。しかし専門の先生は月1回しか来ません。そのため、その診察日まで待つか、専門の先生がいる石垣島とか沖縄まで飛行機を利用して行くことになり、宿泊も必要になるので、何万円もお金がかかります。鎌倉とは全く違います。
与那国町の人は、お酒をよく飲みます。そのため肥満、高血圧、高脂血症が多い。なぜなら生活環境として、飲み会やお祭りが多い。島の外に出ることが大変なので、お酒の他に楽しみがない。お酒を大量に飲むのは自分の意思が弱いからではないのです。個人の意思だけでは、どうにもならない「健康の社会的決定要因」である環境が問題だということが分かってきました。
(休憩)
社会的孤立が死亡リスクを高める
「情けは人のためならず」―この諺は、情けは他人のためだけではなく、いずれ巡り巡って自分に恩恵が返ってくる。だから、「だれに対しても親切にしたほうがいいですよ」という意味です。ところが最近の調査では、孤独感を感じる人が多くなってきています。社会や地域とつながる機会がない人は社会的孤立状態に陥り、死亡リスクが高くなります。
94歳の祖母が地域の人たちとつながる
10年くらい前。鎌倉で一人暮らしの私の祖母・幸子さんが、94歳で生活の手伝いが必要になってきました。近くで暮らしてみると、高齢者が地域で交流する機会がないことに気づきました。高齢になったら施設に入所するのが一般的で、それ以外の選択肢がないのです。保健師として地域のつながりをつくりたいと思い、祖母の家を地域の皆さんに開放して、居場所「さっちゃんち」を始めました。
自分らしさを取り戻せる幸せ
最初に英会話サークルを始め、鎌倉野菜の販売から朝市へと発展しました。4年後の2019年、私と友だちが見守るなかで、住み慣れた自宅でさっちゃんは亡くなることができたのです。98歳でした。その間、家主として朝市の野菜のお金の受け渡しもして、地域の人たちと共に生きるという人生最後の貴重な体験をしました。そんな体験から人の温もりを伝える環境を大切にしたいと思い、地域のつながりの場「さっちゃんち」を現在も続けています。ボードゲームや好きな編み物をしたり、ただ座っているだけの人もいます。居場所を必要とする方が自分らしさを取り戻せる所になっているのです。
人と共に生きていく大切さを忘れずに
人の生活は、人とか物理的な環境に影響されています。健康は自分の努力だけでは得られません。環境を変えて人と共に生きていく大切さをぜひ知ってもらいたいです。生まれた環境は人にとって、それぞれ違うので、平等の機会を与えられても、結果は違ってきます。だけど、環境を変えることで、同じ結果になることも可能です。これが、結果の平等です。皆さんも元気に過ごし、夢を実現できるように環境を整えていっていただきたいと思います。
(文責=菊池みどり、写真=島村國治)
