2026年度「子ども大学かまくら」第1回授業
「総合商社」×「デジタルAI」の経済教室
講師 荒川 朋美先生(双日株式会社 取締役 専務執行役員CDO兼CIO 兼デジタル推進担当本部長)
2026年6月7日(日) 午後14時から
鎌倉生涯学習センターホール
(授業レポート)
私は、総合商社の双日に入って5年。その前はアメリカのテクノロジー企業IBMで働いていました。技術を使って企業の成長を支えるだけでなく、社会にどのように貢献できるかを考えてきました。皆さんはスマホを使っていますが、私が生まれた頃は存在していませんでした。それほど、AI(人工知能)技術の進歩はめざましく、私たちの生活だけでなく、世界は大きく変わろうとしています。今日は皆さんと一緒に、AI技術で生活や世界がどのように変わっていくかを考えてみたいと思います。
今、クイズで1年間に1600万人の人たちが、人口7万人の鎌倉にやって来ることが分かりました。一方で総合商社は、世界の人たちが必要な物を、必要とする場所に届ける仕事、事業をしています。ラーメンから電車、病院などあらゆる物を扱っている総合商社という企業の形は、日本にしかありません。だから外国ではSOUGOUSHOUSHAという言葉が英語で通用するのです。
ラーメンから地下鉄、総合病院を世界に
どんなことをやっているのでしょうか。例えばケニアでインスタントラーメンを生産し、販売したら、「おいしい」と喜ばれています。フィリピンでは「Fuwa Fuwa」という名前の柔らかいパンを工場で生産して販売しています。オーストラリアでは都市鉄道の整備が進められていました。そこで鉄道会社と協力して、鉄道インフラの整備に参画し、車両の保守から運行システムなどを主導しています。トルコには日本のような総合病院がありませんでした。そこで地元企業と協力して、イスタンブールに2600床の大型総合病院を開設しました。またエネルギーの安定供給や環境への配慮が求められる中で、太陽光発電事業も世界各地で行っています。
玄界灘の鷹島でマグロを養殖
このほか、数え切れないほどの事業を世界各地で展開しています。経済活動は、売り上げから人件費などの経費を差し引いた残りが利益になります。そして、その利益を新しい事業への投資に活用することで、さらに成長していきます。人件費などの経費を小さくしていくと利益は上がります。それを劇的に改善するのがテクノロジーや、AIです。
双日は、長崎県の玄界灘にある鷹島で本マグロの養殖を行っています。33基もある直径40メートルの生け簀で、毎年1万尾も出荷しています。一つの生け簀にマグロが1000尾いますが、音波を魚に当てて、その跳ね返りデータをAIに学習させ、正確な数を把握できるようになりました。
AI技術の登場で、人間だけではできなかったことが可能になり、エサの量も決めることで無駄がなくなり、魚の大きさも分かるので、出荷の時期も正確に把握でき、収益も上がっています。
(休憩)
赤潮を予測するシステムを開発
マグロの養殖事業では社会貢献もしています。プランクトンが異常発生すると海の酸素が不足する赤潮が発生、2024年に長崎県で16億円の被害が出ました。そこでAIを活用して気象データ、プランクトンの量など、赤潮に関するデータを集め、予測システムを開発しました。赤潮の発生を事前にキャッチすると、スマホで漁師に伝え、生け簀を海の底に沈めたりして、被害を防ぐことが実現しました。
いつも使う言葉で応答するAIが登場
今、AIによる革命が起きたと言われています。この50年間に大きな技術の変化が三つありました。一つはインターネットが広く使われるようになったこと。二つ目はスマホが普及して、だれもが情報にアクセスできるようになったこと。三番目はAIの登場です。AIは、特別なプログラム言語を使わず、日常使っている言葉で、コンピュータと会話できるようになりました。例えば「家族でマグロを鎌倉のお寿司屋で食べている画像を作って」とAIに指示します。すると、「鎌倉」という掛け軸まで入った画像が出ます。よく見ると不自然な感じもしますが、AIは指示に忠実に従う傾向があります。
間違いもあるAIの情報
そのAIは、どうやって動いているかを知っておいてください。AIは、インターネット上の膨大なデータや文章を読み込み、学習することで、答えをつくり出しています。しかし、そのデータが全て正しいとは限りません。にもかかわらず、AIは、あたかも真実のように自信満々と答えるのが特色です。これを専門用語で「ハルシネーション」と呼びます。そのため皆さんはAIが出す情報を鵜呑みにせず、本当に正しいかどうかを考えて使うことが重要です。テクノロジーに国境はありません。インターネットを通じて世界中の人や情報とつながることができます。だからこそAIには様々な可能性があります。皆さんもAIを上手に利用して、未来を切り開いていってください。
今、興味のあることを大切にして
人の命を乗せて、寸分の狂いなく飛んでいく精密機械の飛行機を理解したいと思ったのが、皆さんと同じ小学生の頃です。飛行機がなぜ飛ぶのかという疑問から、パイロットになることを夢見ました。この夢は実現しませんでしたが、IBMに入って、世界中を飛んで回る仕事をするようになりました。双日には飛行機を扱う航空本部もあったので、第二の人生で双日を選びました。今はAIを使って新たな価値を生み出すことを仕事としています。重い固まりの飛行機が何で飛ぶか分かりますか。(小学5年生・男子=揚力です)そうです。巨大な飛行機の羽の揚力で飛ぶことができるのです。私は飛行機が好きで、世界中を回る仕事につながりました。皆さんも、今、興味、関心を持っていることを大切にして、将来につなげていただきたいと思っています。興味のあること、その源泉が何なのかをぜひ考えてみてください。(了)
(文責 横川和夫・写真 横川和夫、村野健一、中村和男)
