子ども大学かまくら 2012年度 開校記念講演

* 開校式 12月1日(土)午後2時~から * 鎌倉生涯学習センターホール

  開校式  理事長 田上寛 あいさつ 

 

* 子ども大学かまくら  開校記念講演 

  「勉強ってなあに?

     学長 養老(ようろう)孟司(たけし)東大名誉教授 

 

「子ども大学かまくら」が12月1日に開校式を行い、本格的にスタートしました。

開校式には107人の「子ども大学」の小さな〝大学生″が参加し、学長の養老孟司先生(東京大学名誉教授)の「勉強ってなあに?」というテーマの記念講演に熱心に耳をかたむけていました。

 

●  できなかったことができるようになるのが勉強

養老先生は、御成小学校に在学中の70年近く昔のエピソードをおりまぜながら、「耳や目など五感を通じて脳に入ってきた情報をもとに考え、外に出す動き」が学ぶことであり、人間が成長していくことだと、最初に「学び」のメカニズムについて説明しました。

終戦直後はタクシーがなく、お医者さんだった母親は人力車で往診(おうしん)したり、くつ下などにボロ切れをつめてぬい合わせた手製のボールで野球をしたり、八幡様の池のそばにあったふじたなのかれた幹をこわしてゾウムシを採った、というエピソードに〝大学生″たちは目をかがやかせています。

「今までできなかったことができるようになるというのが勉強なんです。虫だって初めは何が何だかわからないんですよ。しばらくいろんな虫を見ていると、だんだんわかってくる。種類が違う。いろんな種類があることもわかってきます。それは、今まで知らなかったこと、虫の見分けがついてくるんだから、学んだこと、勉強したことになります。泳げなかった子が泳げるようになれば、これも学んだこと、勉強したことになります。そういうふうにして、勉強ってことを考えると、人って一生勉強をやっていくんですよ」

 

●  外に出ていろいろ観察することが勉強なんです

学校で授業を受けることだけが勉強ではない。外に出て、行動することでさまざまなことを学んでいくのです。養老先生は友人三人と一緒に滑川の水源を突き止めようと、川のなかを歩いて上流までさかのぼってみたり、ウナギをザルで採ったりすることに熱中したそうです。

「鎌倉は具合がいいことに山がたくさんあります。だから休みになったら滑川に入って魚を採るか、裏山に行って山のなかを歩いていました。そうすると非常に勉強になります。今思えばですよ。学校の成績が良くなるとか、そういうことではありませんけど」

家の中にじっとしていると周りが変化していくことに気がつきません。外に出ると太陽が東から西に移動していくにつれて、景色も変化していく、外に出て観察し、行動することが大切だと養老先生は強調します。

「これからはいろいろな人の話を聞くでしょうけれど、聞いて大事なことは聞くだけじゃなくて、それで自分が何をするか、ですね。耳から聞いて聞きっぱなしだと、頭の中にたまるだけ。たまってものはどうせゴミですから、どっかにいっちゃいます。でも自分で出して、やってみるとよくわかります」

 

●  問題の解き方を人に教わっちゃいけません

ただ聞くだけでは、頭にゴミとしてたまってしまう。自分で考えることが大切だという耳が痛くなるような話も出てきました。

「算数だって『考えろ』って先生が言うから、君ら考えているかどうかわからないけど、本気で考えてくださいね。ひと言、言っとくと、算数の問題の解き方を人に教わっちゃいけません。人に教わったら、その子は絶対に教わるくせがついちゃって、しかも自分じゃ考えなくなります。じゃあ、できないじゃないの。わからなくなったらどうする?わかるまで辛抱してください。そのうち必ずわかるんだから。いつごろ分かるの。10年かかるかもしれない。それまではバカみたいに言われますけど、別にいいんですよ。バカじゃないんだから。大人になったら、それがよくわかりますよ。なんで小学校の頃、こんな簡単なことが分からなかったんだろう、と」

 

●  自分で考える勉強には辛抱が大切

こんな話を聞くと、なかには「一つひとつ、じっくり考えることをしていたら、前に進んでいかないよ。授業についていけなくなる」と、思った〝大学生″がいるかもしれません。

しかし養老先生は、そんな疑問にこたえるように最後にこう結んだのでした。

「ぼくは友達がいて、時々、よく集まるんだけど、大学で勉強してきたような人が多い。そういう人たちと話をすると、みんなやってきたことは自習です。自分で勉強してきた人たちです。そういう人たちは大きくなったら科学者になったり、先生になったりしています。自分で考えてきた人は、同じような人から見たらすぐにわかります。そのかわり、なかなかすぐには偉くなりません。しんぼういりますよ。自分で考えるくせをつけるのは大変なんだから。時々、思い出してください。自分で考えなきゃダメなんだと。問題一つを一週間考えたらいいじゃないですか。できるか、おかしくなるかどちらかだと思います。だいたい一週間しんぼうしないの。同じ問題なら15分考えたらダメですからね。集中するのはそのぐらいが限度ですから、ぼく、覚えがありますよ。でも、それで自分で一つ問題を解いたら、それからあとは、それと同じような問題は二度と忘れないです。この年になっても忘れません。忘れないってどういうことかって、いつだって解けます。そういうふうにやってみてください。考えるとはそういうことです。しんぼうよ。お説教しましたけれど、もうあとは忘れていいです。暇だったら外に行って虫採ってよ。鎌倉にはまだいろんないい虫がいますよ。ということで今日はおしまい」(文責・横川)

 

◇         質問コーナー ◇

 

◇ 先生はどこの小学校を出たんですか。 

養老先生 御成小学校。

 

◇ どうやったら勉強が大好きになりますか。

養老先生 けっこう難しいんだよ。一つはいやなことはやらないこと。もう一つは、だれでも好きなことがあるでしょ。その好きなことを本気で一生懸命やると、いつの間にかいやなこともやらなきゃいけなくなることも、わかってくるんですよ。ぼくは本当に好きなことしかしたくなかった。どうすればいい? やらなきゃならないことは、好きになればいいんですよ。簡単でしょ。君らは、好ききらいは変えられないと思っていませんか。この辺が一番問題なんでね。普通の人がやっていることは自分にできないわけがない、と思ったらいいんですよ。だから勉強がきらいならばきらいでいいんですよ。なんか好きなことがあるでしょ。好きなことを一生懸命やってごらんなさい。そうすると、なんと、いろんな勉強しなければならないことに気がつくよ。ぼくはさっきから虫採りの話をしてますけど大変ですよ。ある程度、標本がたまってくると、これなんだろうと調べなければならなくなる。字が分からなかったら図鑑が読めませんよ。読んでると難しい言葉がいろいろ出てきて、しかも学名が書いてある。それはラテン語ですよ。インターネットで調べると意味が書いてある。ドンドンそうやっていると、好きなことをやっているうちに、いろんなことを覚えなければいけなくなるんです。虫がいつも同じ葉っぱを食ってるけど、この葉っぱは何だろうって植物の勉強を始めることになる。こっちの土地の虫とあっちの虫では似ているけれど、よく見ると種類がちがう。どうしてちがうんだろう。この虫はこっちにいるけどあっちにはいない、どこが境なんだろう。それを調べていくと、地質学でいうプレートの境だったりするんですよ。この辺では箱根と伊豆の境がそうだよね。伊豆って80万年前までは島だったんです。80万年前に本州にくっついた。島と本州では虫の種類がちがうんで、80万年たった今でも、ちゃんと境があるんです。学校でそのうちに糸魚川静岡構造線(日本列島のほぼ中央に横たわる大断層)を習うかもしれませんが、そこを境にして虫がちがいます。というようなことが虫を調べるだけでも、どんどんやんなきゃいけない。だから、勉強が全部きらいというなら私と一緒で、友達と遊んでいればいいじゃないか。いいんですよ、それだって。友だちと付き合うんだって、いろんなことを覚えなきゃいけないんですよ。

 

◇ 先生はどんな虫が一番好きですか

養老先生 今の小学生はどこでもその質問をしてくるんですね。テレビかな。どうしてそれを聞きたくなったのか聞いてみたいなあ。好きな虫、きらいな虫はあります。基本的には格好がいいとか、きれいだというのがありますね。きらいな虫いっぱいあります。一番きらいなのは鎌倉に多いゲジゲジ。カマクラオオゲジという名前がついている。役にも立たない長い脚(あし)で、ちょっといじめるとすぐ脚を置いて逃げるんだよ。この前、家の座しきに、なんか怪しげなものがあった。こんな小さいんだけど遠くから見ると、老眼ですけど、小さいゲジゲジに見えるんです。でも胴体がないから変だなあと思ってじーっと見たらゲジゲジだった。女房がハエたたきで子ゲジをバンとつぶして、胴体を捨てたんだけど、脚は捨ててなかったから、脚だけが残ってたんだね。あれきらい。あとクモがきらい。クモがきらいなのは、でかいのに水ひっかけたら、とたんにビュッて縮んでしまう。こんな小いちゃくなってしまう。あれが気に入らない。

 

◇ 先生は学校で、成績が優秀でしたか。

養老先生 それは僕の先生に聞かなければわからないですね。幸いにもこの間亡くなられました。みんなでお墓参りに行ってきましたけれど。鎌倉市の教育長もやってました。なかなかいい先生で、僕は成績がいいよりは、しょうがないから教室に入れてもらっていたみたいな生徒でした。別なことしてるから。当時の小学校の机は、ふたを開けて、その中に教科書を入れるような机でした。ぼくは、そのふた開けて、おでこを当てて、下に本を入れて読んでいました、教科書をもらうと、もらった日に読んでしまう。読んでしまうと、残りの日が退くつじゃないですか。しょうがないから本を読んでいた。遠りょして机の上に本を出すことはしませんでした。まだそのころ、先生は怖かったから。そのくらいでいいですか。

 

◇   好きなスポーツは何ですか

養老先生 山登りですよ。虫採り。あれスポーツなんですよ。ぼくの知り合いで、今ラオスにいる男は、君らのころからチョウチョを採り始めて、チョウチョ採り以外はやったことがない。そいつがどのくらいのスポーツマンかと言うと、ラオスの山奥で一緒に虫採ったことがあったけど、下まで20メートルぐらいある谷に丸木橋がかかっている。雨降っているのにその丸太の橋を渡って途中まで行って、ぼくはおっかないからやめてくれっと言ったんですけど、「チョウチョいた」って言うんです。チョウチョって40メートルから60メートルぐらいの高さの木のてっぺんの葉っぱに卵を産むんですよ。その卵を採って育てると、いい標本が採れるから、熱心な人は木のてっぺんに登るんですよ。そのてっぺんまで登って卵がないと頭にくるでしょ。どうするか。彼は、枝をゆすって隣の木に飛ぶんですよ。サルでしょ。サルができることを人間ができないはずはないでしょ。きみらは人間なんでしょ。サルより偉いはずですよ。というスポーツをやっています。今度お話しするときは質問だけにしようね。説教するのはいやになったから。(了)