2017(平成29)年度 第2回授業

 

2017(平成29)年度 第2回授業

 

(ほとけ)さまや宝石(ほうせき)も楽しんだシルクロード」

 

 講師 梅村 (ひろし)先生 

中央大学名誉教授

 

7月1日(土)午後2時

鎌倉生涯学習センターホール

 

 

 

(授業リポート)

 

 

孫悟空(そんごくう)のように世界を飛び回ろう  

 

皆さん、こんにちは。タイトルのシルクロードって何だろう。仏さまは、おがんだり、お願いしたりする人間の気持ち、心の問題に関係します。宝石(ほうせき)宝物(たからもの)です。つまり人々の気持ちやモノが動き回った道、場所がシルクロードです。

西遊記(さいゆうき)を知っていますか。雲に乗って動くおサルの孫悟空(そんごくう)、ブタの猪八戒(ちょはっかい)、カッパの()()(じょう)が、白い馬に乗った三蔵法師(さんぞうほうし)を守りながら旅をする物語です。

物語ですが、実際にあったことも(ふく)まれています。どこまでが物語で、どこが事実なのかを確かめ、未来を見通すための力にしていく、それが学問です。

今日は孫悟空のように世界を飛び回って、皆さんが大人になったときの世界、未来を考えてみようというのが目的です。

 

 

 

三蔵法師は実在していた

 

シルクロードはいくつもの国や文明の世界を結びつけるロード、道です。

 

シルクロードで結ばれた中国、インド、イラン地中海、そして遊牧民の世界では、さまざまな人たちが()らしています。(その(ちが)いを写真で投影(とうえい)しながら説明)

 

そのシルクロードを舞台(ぶたい)にした「西遊記」は物語ですが、三蔵法師だけは実在した人物です。玄奘(げんじょう)三蔵(さんぞう)というお(ぼう)さんが、仏教の経典(きょうてん)を研究するため629年に中国の(とう)を出発し、トルファン、バーミヤンなどに立ち寄りながら何千キロも歩いてインドを(おとず)れ、各地の巡礼(じゅんれい)をかさね、645年にたくさんの経典を持って中国に(もど)ってきました。

 

当時の日本では大化の改新が始まったころです。その旅を記録したのが「大唐(だいとう)西域記(せいいきき)」という本です。

 

 

 

仏教を研究するためインドへ

 

玄奘三蔵は、いろいろな国に立ち寄っていますが、アフガニスタンのバーミヤンもその1つです。そこには断崖(だんがい)をくり()いてつくった高さ55メートルと38メートルの2つの巨大な大仏がありました。当時は、金ぱく、または真鍮(しんちゅう)をはってキンキラキンに光っていたようで、その大仏さまを玄奘三蔵は見ました。2001年に、破壊(はかい)されました。人間の起こした戦争の惨禍(さんか)です。

 

ガンダーラも訪れています。仏教では最初のころは、仏像はつくりませんでした。ところが1、2世紀ころからガンダーラでは仏像をつくり始めました。

 

それはギリシャ・マケドニアのアレキサンダー大王が遠征(えんせい)に出て、イランを経てインドの近くまでやってきます。そのときに像をつくるギリシャの文化が伝わり、仏教の信仰(しんこう)を表現するのに仏像をつくるようになったのです。

 

そのため仏像の顔をよく見ると、つくられた時代や場所によって、ギリシャ人やインド人、そしてチベットやイラン(けい)の顔を思わせるものもあります。

 

仏像は中央アジア、中国、朝鮮(ちょうせん)を通って日本にもやってきました。鎌倉の大仏様も、シルクロードや玄奘三蔵のようなお坊さんのおかげで存在(そんざい)しているということになります。 

 

(休憩)

 

(きぬ)を求めて中国へ長い旅

 

後半は、シルクロード、絹の道という言葉から始めます。

 

カイコの(まゆ)からつくられる絹は、昔から非常に価値(かち)あるものとして大切にされ、中国の王朝では、つくり方を秘密(ひみつ)にしていました。今、カイコは1(ぴき)、2匹ではなく1頭、2頭と数えます。自然には生きられない。牛や馬と同じで、人間が飼いならしているのです。

秘密はいつかバレてしまいます。シルクロードの中央部で発見された板には、中国の王女が(とつ)いでいく姿が描かれています。女性の(かんむり)の中にカイコの繭が(かく)されています。お(とも)のかごにはカイコが入っています。お嫁に行くとき、秘密にしていたカイコや育て方などの技術を持ち出したのです。

その絹はローマ帝国(ていこく)では金と同じ値段(ねだん)で取り引きされていました。

近代まで、世界中が絹だけでなく陶磁器(とうじき)など、中国がつくり出すものが欲しいと、たくさんの国から商人が中国を訪れていて、やがて朝貢(ちょうこう)貿易が始まります。中国は紙、火薬、羅針盤(らしんばん)の発明でも知られています。

 

 

ミンクの毛皮やサンゴを中国へ

 

遊牧民の商人はキツネやミンクの毛皮、インドの商人はサンゴや真珠(しんじゅ)といったように、さまざまのオミヤゲを持ってシルクロードを通って中国へやってきました。一部の商人は皇帝に会って高級な品物をオミヤゲとして(わた)します。そして皇帝(こうてい)からはお返しとして、2倍も3倍も価値(かち)あるものをもらって帰ります。

 

そんなことが()り返されているうちに、さまざまな国の品物を力のある一つの国に集めて、王様だけでなく役人や学者((そう))も入った代表団という形で中国へ行く。つまり王様が中国の皇帝に会うという表向きには訪問(ほうもん)外交ですが、(うら)では商取引を行うという「朝貢貿易」が(さか)んになっていきます。

 

 

 

シルクロードを通じて東西文化が融合(ゆうごう)

 

当時の商人たちの姿(すがた)がドロ人形や陶器(とうき)になって残っています。(かれ)らがシルクロードを通って運んだものが、さまざまなところで発掘(はっくつ)されています。

例えば、フタコブラクダの絵が()かれている(きぬ)織物の断片(だんぺん)が見つかっています。絵には「()(おう)」という漢字が入っています。中国から見たら西の方の国の王様に渡すためにつくられた織物で、こういう形で漢字が伝わっていったのです。

洞窟(どうくつ)壁画(へきが)も、真ん中の菩薩(ぼさつ)さまを取り囲んでいる菩薩の顔はインドやイラン、中央アジアの人たちを思わせるものになっています。このようにシルクロードを通じて東と西の文化が行き来すると同時に、混ざり合い、融合(ゆうごう)していったのです。

 

 

 

東の終着点が奈良(なら)の正倉院

 

シルクロードは中国から遊牧民の世界を通る道と、玄奘三蔵のように砂漠(さばく)やインドに行き、あるいは西の地中海に行くという、2つの道のほかに海を渡っていくルートもありました。実は海のルートはアジアを結びつけるなかでは重要な役割(やくわり)を果たしています。そのルートも朝鮮半島を通るルートなどいろいろありますが、シルクロード全体の終着点は日本の奈良にある正倉院ともいわれます。

 

正倉院は756年、玄奘三蔵が中国に帰国して100年たったころに建造されました。聖武天皇と光明皇后(こうごう)ゆかりの品々が(おさ)められています。そのなかにはシルクロードを象徴する楽器の琵琶(びわ)があります。

 

中央アジアからインド、イランでつくられた楽器ですが、デザインがすばらしい。ラクダの背中(せなか)に乗ったソグド人が琵琶を()いています。

 

このようにシルクロードは、さまざまな国々のお坊さんや学者、役人、そして商人たちが行き来して、それぞれの国の宗教(しゅうきょう)や文化、そして特産品を伝えたり、運んだりして、融合(ゆうごう)させていきました。こうした歴史、文化の流れだけでなく、日本もその影響(えいきょう)を受けていることを理解し、皆さんが未来を考える手がかりにしてもらえたらうれしいです。 

(文責・横川和夫、写真・島村國治)