2016(平成28)年度 第1回記念授業

 

  

5周年記念講演・特別公開授業

 

「養老孟司の世界」

 

講師 養老孟司先生 

子ども大学かまくら学長 東京大学名誉教授

 

5月21日 午後3時10分 

鎌倉芸術館小ホール  

 (授業リポート)

 

 

ラオス、コスタリカ、ブータンを訪ねて

 

養老先生の授業は、初めてプロジェクターで写真を写しながら話を進めるという趣向(しゅこう)。どんな話になるのだろうか。学生たちは興味しんしんで待っていた。

 

ラオスで命拾い

 

スクリーンに最初に映(うつ)し出されたのは、2年前にラオスに虫捕(と)りに行く飛行機の機内の写真だ。飛行機はカナダ産の小型旅客機「ツイン・オッター」で、19人乗り。操縦(そうじゅう)席のドアが開いている。操縦席の装置(そうち)が丸見えだ。

 

「僕は飛行機も好きでね、ヨーロッパではテロがあるから、ドアを開けたまま、こんな形で操縦席のレーダー装置まで見ることができません。しかも、これが最後の写真です」

 

最後の写真と言うのは、この小型機は養老先生一行を山岳(さんがく)地帯まで運んでビエンチャン空港に帰る途中(とちゅう)、山中の谷底に墜落(ついらく)して、バラバラになってしまったのだ。

 

「ホテルに入ってテレビを見たら、僕たちが乗っていた飛行機の墜落現場写真が出ていました。だからこれが最後の写真です。虫捕りも命がけなんですよ」

 

 

オフィスビル入口に大ミツバチの巣

 

オフィスビルの入口近くの天井(てんじょう)にある大ミツバチの巣の写真。

 

「黒いのは全部ハチです。ハチはなぜ人間を刺(さ)すか。怖(こわ)がっているからです。怖がることをしないと刺しません。仲良くすれば何でもない」

真っ暗な暗闇(くらやみ)の中に張られた白い布の真ん中が明かりで浮(う)かびあがっている。

 

「明かりをつけると虫が寄ってきます。たくさんスズメガもくる。これはいらないと捨(す)てると現地の人たちが拾って、たき火をして、焼いて食べています」

 

コスタリカでの虫捕り

 

次が2年前に虫捕りに行ったコスタリカの写真に変わる。

「神様のおつかい」と言われるきれいな鳥「ケツアール」。頭から背中(せなか)にかけて光沢(こうたく)のある濃(こい)緑色でおおわれている。

「かわいいでしょう」

 

リス、チョウ、シロタカ、薄(うす)い青色をした手のひらほどの大きな蛾(が)・オオシズアオと、次々に出てくる。 

 

「大昔は北アメリカと南アメリカ大陸は離れていたんですが、240万年前にくっついてできたのがコスタリカです。ところが虫は今でも北と南の違(ちが)いがはっきりしていて、北と南がまじりあった昆虫はまだ見つかっていません」

 

毛虫から蛾の生態を追うムシ博士

 

上半身はだかのおじいさんの写真が映し出された。アメリカ生まれの熱帯生物学者で、昆虫博士のダニエル・ハント・ジェンゼンさん(77)だ。

 

「長い間、コスタリカで昆虫の生態を研究している世界的に有名な昆虫博士で、天井からたくさんつるしてあるビニール袋(ふくろ)には、芋(いも)虫や毛虫が入っています。どんな毛虫からどんな蛾が出てくるかを、こうやって調べているんです」

 

 

 不思議なシロアリ

 

手長カミキリ、ゴキブリ、シロアリの写真が出てくる。

 

「シロアリはアリではありません。ゴキブリの親類です。とてもおもしろい生き物です。シロアリの仕事は、材木のセルロース、多糖類(たとうるい)を分解して糖(とう)にすることです。人間にはこの能力がないので、材木を食べても消化しないで出てきます。シロアリもセルロースを消化できません。でも材木を食べます。なぜだ」

 

「シロアリのおなかのなかにアメーバがいて、セルロースを消化しています。シロアリは、その上前をはねているんです。そのアメーバは42度で死にます。だからシロアリを43度で飼うとアメーバは死ぬので、シロアリも飢(う)え死にしてしまいます」

 

 

 

20年前からブータンへ

 

養老先生はブータンにも出かけている。そのブータンの街やお寺、仏像、田園風景などの写真が写し出された。

 

「ブータンの首都、ティンプーの標高は2200メートルですから、日本の高い山の上にあるような国です。今の空港は日本の援助(えんじょ)で建てられた近代的な建物ですが、20年前に訪(おとず)れたときは、掘(ほ)っ立て小屋で、床(ゆか)は土間でした」

 

男女で服装(ふくそう)文化が違(ちが)う

 

「ブータンの人々は、紅茶(こうちゃ)にバターと塩を入れたものをお茶として飲んでいます。塩からくてスープだと思えばいい。男性は日本のどてらに似たチベットからきた「ゴ」という衣装(いしょう)を着て、女性はインドの布一枚(まい)のサリーに似た「キラ」を身に着けています。男女の服装がチベットとインドと、文化が異(こと)なる国の影響(えいきょう)を受けているのは珍(めずら)しいことです」。

 

 

 

養老先生のブータンの話は、この後、動物、食べ物、宗教(しゅうきょう)と広がっていく。詳細(しょうさい)は、2年ごとに発行する「子ども大学かまくら」授業記録「学びのきろく」に掲載(けいさい)の予定。

 

(文責・横川和夫、写真・島村國治)