2014(平成26)年度 第1回授業

「なぜ昆虫に興味を持ったのか?」

 

講師 学長 養老孟司先生 東京大学名誉教授

 

6月21日(土)10時~11時半 

鎌倉芸術館小ホール

 

 

 入学式に続き、第1回の授業。「子ども大学かまくら」学長の養老孟司(たけし)=東京大学名誉教授=先生が「なぜ昆虫に興味を持ったのか」というテーマで幼少期の体験などを具体的に話されました。

 

ここでは、そのごく一部を紹介しますが、授業の全容は「子ども大学かまくら」の授業記録に収録する予定です。

 

 

 


[先生のお話]

 

足の長いゲジゲジは嫌い

なぜ、虫が好きかと聞かれても、理由は自分でもわかりません。好き嫌いに理由はないのです。ゲジゲジのように足の長い虫が嫌いです。足の短いムカデは嫌いではありません。熱帯地方に行くとタマヤスデといってダンゴ虫の大きい感じの虫がいます。くるくるっと丸くなって、色が紫色と緑とか、すごくきれいです。マダガスカルという島で、緑のタマヤスデが500匹ぐらいかたまったのを見たことがあります。

 

ゾウムシは硬いので好き

好きな虫はカブト、クワガタ、カミキリのような硬(かた)い虫=甲虫(こうちゅう)と呼ぶ=で、中でも熱心に調べたのはゾウムシです。日本では約1000種類わかっています。カミキリムシが700種くらいだから、それよりずっと多い。一番種類の多い甲虫の中で、一番種類が多いのがゾウムシです。木の葉にいっぱいいるので、傘(かさ)をひっくり返して木の枝の下に置いて、葉っぱを手や棒で叩(たた)くと、葉っぱについている虫が全部、傘に落ちてきます。

ゲジゲジのほかに足が長すぎるのでクモが嫌いです。

 

冷凍庫に入れれば虫は死ぬ

昆虫の標本を初めて作ったのは小学校4年生の時で、いまから67年前です。そのころの標本は残っていません。全部虫に食われるか、なくなりました。残っているのは、中学2年生からの標本です。

標本を作るには、まず生きている虫を殺さなければならない。一番簡単な虫の殺し方は、お湯の入ったコップに入れればよい。それがいやな人は、採った虫をチャック付きのビニール袋に入れて冷凍庫に入れると、すぐに死にます。

 

マレー半島で5千600匹のゾウムシを採取

殺したら針を刺して標本を作ります。専門の昆虫針で虫を刺して箱に入れる。この2月にマレー半島でゾウムシを5600匹採ってきたので、整理するのが大変です。

標本にする時、大きい虫は針を刺す。小さい虫は厚い三角形の紙に張り付けます。標本を作るときに大事なことは、採った場所や日、人の名を記入したラベルを針で刺しておくことです。

夏休みに虫でも採って、どうするか考えてみてください。チョウとかトンボは標本にするのは大変です。甲虫が好きになった理由のひとつは、標本を作るのが簡単だからです。要するに針を刺して置いておけばいい。防腐剤もいりません。乾かせばいい。

 

昔の自然の姿が残る小網代

油壷(あぶらつぼ)の手前に小網代(こあじろ)という所があります。山があって、小さな谷川が一本流れています。入り江があって湾(わん)になっています。この谷が舗装(ほそう)されて、今年から入れるようになりました。一度行ってみてください。

ここは7月になるとアカテガニが卵を産むので有名です。そこに行くまでに広いキャベツ畑があります。ところが春なのにモンシロチョウが一匹も飛んでいない。農薬や化学肥料のせいです。恐ろしいことです。しかし小網代は人工的なことはいっさい何もしていないし、家もありませんから、昔はどうだったかを知るために非常にいい所です。

 

昆虫の世界にも異変が

鎌倉で昔から虫を採っていますが、大きく変わりました。たとえばチョウでは、静岡県より西にしかいなかったツマグロヒョウモンが鎌倉市内で普通に飛んでいます。このチョウはスミレを食べるんです。

こうした異変は、地球温暖化のせいだと言いますが、それだけではない。ツマグロヒョウモンみたいに、人が植えている植物につくようになると広がっていきます。

一方で減った虫がたくさんあります。一番減ったのは水の中の虫です。小、中学校のころは、大船の田んぼに誘蛾灯(ゆうがとう)が置いてありました。蛍光灯みたいな灯の下に薬が入っている水盤があって、虫が灯に飛んできて水に落ちる。虫を捕まえて殺す装置です。その中から虫を拾っていましたが、今では極端にいうと一匹もいません。

 

農薬でミツバチがいなくなる

ミツバチがいなくなっているという現象もあります。理由はわかりませんが、一番疑われているのは農薬です。虫だけに効くという薬をつくると、つい使いすぎるんです。

コンビニが田舎にまで出来ました。田舎にコンビニができると2.3年の間はたくさん虫が来るので、コンビニ歓迎でした。今まで本州で採れたことのないゾウムシがコンビニに集まってきます。でも2,3年すると、ほとんどいなくなりました。

 

虫は月を頼りに飛んでいる

 

それは日本中が明るすぎるからです。虫って実は月を頼りに飛んでいるんです。ところが人間がやたらにたくさんの月をつくってしまったので、どれを目標にして動いたらいいのかわかんなくなって、虫の生活が乱されているのです。

 

 

 

◇ 質問コーナー ◇

 

Q 先生が大好きな虫は何ですか?

 

養老先生 いろいろあって、色がきれいなのが好きです。ゾウムシではホウセキゾウムシです。それから形が面白のも好きです。マサカシマムシは本当に形が面白い。

 

Q 先生が虫を好きになったきっかけは何ですか。

 

養老先生 わかんないだよ。小さい時にはゲームもテレビもないから、いつも滑川に入ってウナギとか魚を採っていたんです。空き地ではトンボやセミ採り。だから、初めから虫が好きだったんだ。

 

Q 先生が今まで見てきた中で、一番心に残った虫は何ですか。

 

養老先生 いっぱい残っています。頭の中は虫だらけです。ミヤマクワガタを初めて妙本寺裏山で見たときは、心臓が飛び出すかと思うほど大きかった。材木座の海岸の水たまりに、筋の入った大きなゲンゴロウがたくさんいました。たぶん今思うとショップゲンゴロウモドキという絶滅危惧種ですね。

 

Q 社会性昆虫はアリやハチのほかにいるんですか。

 

養老先生 シロアリがそうです。社会生活といっても家族で暮らすのはけっこうあって、オーストラリアのゴキブリがそうです。ゆっくりカブトムシみたいに歩きます。穴を50㎝くらい掘って、落ち葉をたくさん持ち込んで、子どもをその中で育てます。あと社会性昆虫で有名なのはアリマキです。アブラムシの一種で、グループをつくっていて、役割分担があって、兵隊アリマキみたいなのがいるんです。    

(文責・矢倉)